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 ティエリアが生真面目にこんなことを言うものだから、滅多なことでは動じない俺もぽかんと口を開けてしまった。
「今から嘘を吐きます。僕は貴方が生きていてほしいなどとは一度も考えませんでした」
「……はぁ」
 まず嘘は吐くって宣言してから吐くもんじゃねぇだろよ。多分今日がエイプリルフールだからだろうけど、相変わらず常識がないというか社会性に欠けているというか。それでもティエリアはエイプリルフールという旧AEUの慣習を知っただけでなく実践しようと行動に移すほど人間らしくなったのだ。これは総合的に褒めてやるとこなんだろう。
 俺はとりあえずティエリアの頭を手繰り寄せてみた。撫でてやる。嫌いと公言していた地上で何か事変があるまで待機という名のつまりは長期休暇指令を受けて早いものでもう三ヶ月、だんだん一Gの重力に慣れてきたティエリアは、撫でられると体重を少しだけ俺の胸へ預けてきた。当初は全力でぶつかられたり逆に突き飛ばしちまったりもしたが、だんだん力の入れ加減を体得してきているようだ。ぐりっとおでこを押し付けてくる。適度な強さが撫でやすくってかわいらしくって、俺はティエリアの旋毛を軽く引っ掻いた。
「悪かったな、寂しい思いさしちまって」
「全然寂しくありませんでした。毎日貴方のことを考えなかったから」
「お前、まぁだエイプリルフールごっこを続けんのかよ」
「続けていません。嘘じゃありません」
 ティエリアは甘えるように俺へしがみ付いてくる。寂しい、寂しいと全身で。どうやら嘘じゃないというのもエイプリルフール中らしい。態度が素直すぎて言葉とのちぐはぐさが際立っている。何だこいつ。どこでこんなかわいい芸を身に付けてきた。ライルか、あいつの仕業か?
 俺のいない間ティエリアを我が物顔で独占していたらしい弟とそれを甘受していたティエリア両方へ憤り、俺は思わずティエリアの耳たぶに噛み付いた。
「痛い……くないです」
「あ、悪りィ」
 力を込めすぎてしまったらしい。びくんと竦んだティエリアの様子に俺は慌てて噛み跡をそっと舐めてやる。するとティエリアはますます背筋を震わせて、俺の首元へちろりと舌を這わせてきた。
 どこでこんな誘い方を覚えてきたんだ、って俺か。そっか、こいつがかわいいのは俺のせいなんだ。お返しに耳へちゅっと大げさに音立ててキスを落とせば、ティエリアが腕を俺の首へ回してくる。俺は腰を抱き、自然にぎゅっと、苦しいくらい互いに体を密着させた。
 ティエリアが小さく囁いてくれる。優しい声で。
「ですから僕は五年もの間後悔し続けたりしていません」
「――ティエリア」
「嘘ですが、嘘ではない。貴方は気に病まなくていい。僕は今貴方がいるだけで幸せだから……ニール」
 ティエリアはすんと鼻を啜った。
 何つーことを言いやがる。かっこいいとこ全部持ってかれちまった。ティエリアにこんなことを言わせてしまう俺の不甲斐なさは今だけ棚に上げといて、俺はここまで想われている世界一の果報者だ。脆かったティエリアは俺を乗り越えて強くなった。そんなティエリアを俺は再びこの手に抱けた。世界を変革させる痛みを引き受けた俺たちには有り余るほどのご褒美だ。
 俺に責任取らせろよ、ティエリア。お前を全力で幸せにする。
 ティエリアが俺の右目に恭しく唇を寄せ、俺はティエリアの背が折れるほどきつく羽交い絞めにした。


2009/04/01
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