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 コクピットに片足突っ込んで何やらがさがさやってるティエリアを、俺は後ろから捕まえた。
 非常食を整理していたらしい。賞味期限の新しいものへ入れ替えているのか、旧パッケージ品が足元に散乱している。座席の上に数袋、旧品の封が切られている。
「食ったのか?」
「賞味期限が切れてもまだ食べられるのか、気になって」
「食うなよ」
 腹壊すぞーと忠告すれば、ティエリアは首だけこっち振り返ってきょとんとした。
「まるで貴方にはその経験があるようです」
「あるさ」
「では、分からなくもないでしょうに」
「はぁ?」
 要するに、賞味期限に対しさまざまな好奇心を覚えている自分へ共感せよ、と言いたいようだ。だからってガキのやるようなチャレンジをあえて今試みずとも……と思うのは俺がティエリアに共感していない証明なのか。めんどくせぇ。
「あのなティエリア。ンーなの食ってっとキスしてやんねぇぞ」
「……えっ」
 俺の一言はまさに効果覿面だった。ティエリアはショックに青ざめさえした。手に持っていた非常食がばらばら落ちて、入れ替え前のと後のがいっしょくたに混ざっちまう。けどティエリアは目を見開いたまんま足元見ようともしない。
 そんな傷付いた顔をして……。
 俺は悪くないはずなんだが、ティエリアの目が潤んでるせいで妙な罪悪感に屈してしまった。
「するから。キス」
「……本当ですか」
「お前が風邪引いて寝込んでたってしてやるよ」
 な、と笑えばティエリアが途端に晴れた顔をする。
「今は?」
「もちろん」
 ティエリアがそっと俺に背中を預けてきた。顎を持ち上げ、軽く仰のく。潤んだルビー色の瞳を閉じる。俺はゆっくりティエリアに顔を近付ける。
「――駄目!」
 だが急に、がつんと顎へアッパーを食らった。
「ってェ……何だよ」
「待って下さい!」
「催促したのはティエリアだろが」
「でもまだ駄目です!」
 俺はティエリアに突き飛ばされた。ティエリアは口許を両手で覆い、左右を探しながら、
「……口……すすいできます……ッ」
 小さく呟き、恥じらいに頬を染め上げた。
 座席へ置いてある賞味期限切れの非常食はレトルトカレー。たかが口移しの数滴程度で俺まで腹を下すと案じた、わけではないらしい。
 かかかかわいくねぇか? カレー味のキスで幻滅されるかも、と余計な危惧に苛まれるティエリア。
「別に……気にしねぇけど」
「私がします!」
 初恋のキスはレモン味、を本気で信じていたティエリアだ。あんだけベッドで晒し合ってもまだこういうとこ初々しい。情緒面において幼児、とまでは言わねぇがジュニアスクールのガキ並みだ。純粋培養されて育ったみたいな。
 俺にはそれが、ひたすら眩しい。綺麗すぎて。
「俺、汗まみれのお前の匂いも好きなんだぜ?」
 後退るティエリアを捕まえ直して今度こそ。
 不安に身動ぐティエリアが心底、愛おしかった。



2010/03/31
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flavour (03/31)

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