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 馬鹿、と呟くニールの声は水っぽかった。
 ラファエルをあっさり自爆させたことに激昂していた先の姿はもはやない。代わりに今は、十八インチモニタの端へこつんと額を押し当てる、消沈した彼の背中を監視カメラが拾っている。
 ティエリアは拙く言い訳をした。
「貴方も分かっているはずです。あれが最善の方法だったと」
「……」
「私を惜しんでいるのですか? 時間はかかりますが、生体端末ならいくらでも再製造可能、」
「るせぇ、感情は別モンだ!」
 ニールが押し殺した声で叫んで、ティエリアは沈黙を余儀なくされた。
 それはティエリアにも覚えがある。喪われた存在が残す虚無や、消えた温もりを辿る絶望。しかしティエリアと六年前のニールとでは事情がかなり違うのも事実で、ティエリアは今回、ニールの心情を慮る必要はまったくないと思っていた。
 何より。
「こうして貴方と話ができる……。それで充分ではないのですか」
「……ンーな言い方しなさんな。俺がいじめてるみたいじゃねぇか」
 ニールはやっと小さな微笑を声音に乗せた。
 ヴェーダはその間もさまざまなデータを受信していた。エルスの情報が着々と集まり、トレミーの館内放送に作戦会議の招集が流れるのももう間もなくのことだろう。
 いつまでもニールとこそこそ話してはいられない。では、とティエリアはモニタを省電力モードに切り替える。
 けれど寸前でニールの声が追いすがり、ティエリアは後ろを振り返るようにモニタを再度点灯させた。
「なぁティエリア……痛かったろ……?」
 息を飲む。
「俺が一番辛いのは、お前がお前を、自分の体を大切にしないことなんだ」
 ニールの手がモニタにそっと宛てがわれる。そこへ映るティエリアの頬を優しく包み込むように。
「けどな、お前がそうしたいってんなら今後何度でも受け入れるさ。お前がいてくれさえするんなら……たとえ、どんな形でも」
「ニール……」
「愛してるぜ。ティエリア」
 堪えきれず、ティエリアはぱたりと目を閉じた。実際は監視カメラの映像が嫌でも流れ込んできていたけれど、目を閉じるような気持ちで心を鎮め、ニールの手のひらをじんじん感じていたかった。ニールの手のひらの温もりを。
 ニールがまだ何か言いたそうに頭を上げる。遮って、ティエリアはニールに手を伸ばす。
 今、無性に抱きつきたい。貴方に抱きしめ返してほしい。
「貴方に会える……だけで充分だと思っていたのに……」
 だが伸ばしたつもりの指先は単なる電子の塊でしかない。
 馬鹿、に込められていた悲哀を、ティエリアはようやく理解した。



2010/10/13
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