忍者ブログ

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 ライルが食堂でクソマズいAランチを食っていると、ティエリアが斜め前に座った。つまりフェルトの右隣だ。「お疲れ」「ああ」などと簡素な会話を交わしつつ、ティエリアは無表情にAランチの蓋を開ける。フェルトと仲良いっつうかフェルトとは普通に喋るのな。ライルにはつんけん突っかかってくるか窘められるか無視されるか、要するにあまり友好的にはしてもらえない。ヤってる最中も同様だ。今はヤらせてももらえねぇけど。
「あのさ、ティエリア」
 ティエリアは仏頂面のままライルへちらりと目だけを向けた。
「そいつ食ったらケルディムの整備手伝ってくんね? どーも照準がズレてるみてぇで」
「イアンに頼め」
「っ、そら、そーだけどよ、何つうか、……忙しそうだったし、ほら、あんたの方がそういう細かいの得意だろ?」
 だがにべもない。整備はイアンの仕事だともう一度言い捨てて、ティエリアはふいとライルから視線を外す。見ていたフェルトが微妙な目配せ。ごめんね、とか何とか、無愛想なティエリアをフォローするつもりなんだろう。それがさらに気に食わない。そら二人は昔からCBのメンバーだもんな、新参者の入り込む隙なんかねぇよな。
「お、ライルもここにいたのか」
 そこへ兄が入ってきた。イアンと同じ黒い制服を着ている。数週間前にCBへ帰還、……生還か、を果たしたばかりの兄ニールは、トレミー二の操縦や砲撃を担当することになった。ロックオンのコードネームもケルディムガンダムも今はライルのもんだ、ということらしい。だがトレミーの皆はライルをライル、ニールをロックオンと呼んでいる。
 Aランチのトレーを人差し指だけで器用に支え、ライルの肩へ肘を乗せながらウェイターのようにくるりと指の上でそれを回すと、ニールはライルの隣へすとんと腰掛けた。思わず目を奪われる動作だ。見ればフェルトとティエリアもニールから目が離せないでいる。
 またコレかよ、とランチのメニューに眉を顰めつつ、ニールはフォークでフェルトのトレーの端を指した。
「フェルト、まぁたケール残してる」
「だって……好きじゃないから……」
「飲みなさい」
「ロックオ……ニールは、嫌いなものはないの?」
「俺ぇ? あるにはあるが秘密」
「ズルい」
 ニールが来た途端、寡黙だったフェルトがニールと和やかに話し出した。ゲキマズのピラフを口に運ぶティエリアも聞くという意味でちゃんと会話に参加している。ライルだけでなく、ニールはトレミー皆の兄貴分なのだ。皆が精神的に頼っているのがよくわかる。
 フォークの先を次はティエリアに向けて、ニールは子供をあやすような優しい笑い方をした。
「ティエリアも。同じもんからばっか食うなって言ってんだろ? 三角食べだ三角食べ」
「食べる順番は栄養補給に関わりない」
「つって、わかさぎよけてるだろ」
 マジ? 気付かなかった。見れば確かにティエリアは最初にポテトサラダとケールのジュースを完食し次にピラフを突っついている。わかさぎのフライと飾られていたパセリは皿の隅に押しやって。
「最後に食べようとしていただけです」
「緊急招集がかからねぇかって祈りながらな」
「そっそれは食事より優先すべき事項があれば食べ切れなかったものは仕方な」
「ティーエ」
 ティエって呼ぶのか。ライルは兄を盗み見る。かわいくてたまらないといった微笑を浮かべている。昔ライルが拾ってきた小猫を甘やかす時みたいに目を眇め、じゃれるような甘い声。
「目玉が嫌なんだろ。貸してみ、ちーさく切ってやっから」
 ニールはティエリアの返事を待たず、フォークでぐさっとフライ数本を自分の皿に移してしまった。元の形がわからないくらい細かく切って、カレースプーンへ山盛りにする。
「ほらよ、たんぱく質とカルシウム」
「……」
「これも栄養補給だろ、ティエ」
「……」
「ティー」
 あーんと差し出されてついに、ティエリアはわかさぎを口にした。
「お利口さん」
 ニールがティエリアを撫でて笑う。ティエリアは不本意そうな表情を一瞬だけ過ぎらせたものの、目を伏せて、口元を笑みの形に緩めた。ライルには見せたことのない顔だ。あんだけエロいことしまくったのにさ。どーせ兄さんの身代わりだったけどよ。
 触発されたか、フェルトがごくんとケールを一息に飲み干した。お、頑張ったな、とニールはフェルトにも笑いかける。さっきまで居心地の悪かった食堂がクルーの休憩所として機能し始め、CBは家族だ、とライルに言ったフェルトの言葉が今なら少し分かった気がした。ライルはピラフを無意味にスプーンでかき混ぜる。
「お前、変わんねぇな。考え事しながらメシ混ぜるの」
 ニールがライルの手首を掴んだ。ライルははっとして兄を見る。昔のように耳の横の髪を引っ張られ、昔のようにやり返した。この、とニールがライルの首へ腕を回す。何だか懐かしい感覚だ。
 兄の笑顔を見ながらライルは唐突に、もうカタロンを離れよう、と決意した。


2009/04/04
PR
コメント
トラックバック:
[latest]
flavour (03/31)

  1. 無料アクセス解析
忍者ブログ [PR]