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 下から強く突き上げられて、ティエリアは背筋をぴんと反らせた。ニールを跨ぐ膝が細かく震え、体を支えていられなくなる。腰が沈む。ずぶりと自分の体重に従いニールを深いところまで飲み込む。
「ひぁ、あ……!」
 ドリルのようにぐりぐりニールに抉られて、咄嗟にニールの後ろ髪ごと首へ両腕でしがみ付いた。
「あっ、あ、あ、きもちぃっ! 好きッ、イっちゃ……っクオン……!」
「イけよ。ティー」
「それっ……ヘンにっなるから……ふあ、つついちゃだめぇっ、ニール、ニー……やあぁぁぁーッ!!」
 騎乗位は嫌いだ。いつも以上にニールへ好き勝手されるから。精液撒き散らして意識飛ばして、ふっとニールの汗の匂いへ我に返りながらティエリアはぐずぐず文句を思った。
「嫌いって、お前が感じすぎるのが悪いんじゃねぇ?」
 思っただけのつもりだったが口に出していたらしい。
「……貴方が……」
 自分の声が露骨に掠れていて驚いた。こくんと唾を飲んでから今度は囁くように話す。
「……あ、貴方が、僕の弱いところばかりを……――るから……」
「ん、何するって?」
「……意地悪」
 ニールの舌が好き。ティエリアの弱いところを舐めるのも、ティエリアに意地悪する時ちろっと上唇を湿らせるのも。ティエリアは頬を膨らませたまま強引にニールの唇を塞いだ。
「ん……かわいい、ティエ」
 首の後ろを支えられ、ニールにやわやわと吸い返される。甘さに心臓がきゅんと鳴る。
 もっと舌を絡ませたくて背伸びするように顎を上げたら、せっかく中に収めていたかったニールの陰茎が抜け出てしまった。内股にぬめった垂れる感触。その落ちてゆく感触が嬉しい。だってこんなにたくさん、貴方は僕のお腹の中へDNAをくれたんだ。胎はないけど精神がニールに孕まされる心地さえする。ティエリアの中に、ニールとティエリアが混ざり合ってできた、人間らしい思考部分が形成される。
 顔が見たくてキスの最中に瞼を開けたら、薄目のニールと目が合った。
「……目ェ、開けんなよ」
「なぜ。貴方こそ開けているではないですか」
「俺はいーの。お前を見ていたいんだから」
「僕も同じです。貴方の顔が見たい」
「……おン前なぁ」
 唇をくっ付けたまま喋っているから、ニールが溜息をふっと吐くのまで吐息にキスされた気分になる。照れるだろーが、と言いながら名残惜しげに至近距離まで離れたニールは、ティエリアの顔をまじまじと見つめては自分の首筋をがりがり掻いた。
「――ンな顔すんなよ……」
「? どんな顔ですか」
「ッ言わせんな!」
 ニールが顔をふいと背けた。嫌われた? 咄嗟にニールの首へ回していた腕へ力を込めてしがみ付く。
「ニー……ロ、ロックオン……っ」
「ニールでいいさ」
 ぽんぽんとあやすように素肌の尻を叩かれて、ティエリアはニールの肩に額を押し付けた。ニールはいつだってティエリアに優しい。けれどもしかしたら鈍いティエリアを鬱陶しがっているかもしれないし、邪魔くさいと思いながらティエリアがあまりにしつこいから仕方なく相手してくれているのかもしれない。この人はそうしたっておかしくないくらい優しいのだ。極論から極論へ走るきらいのあるティエリアである。考えは悪い方へしか向かわずだんだん涙ぐんでくる。
「お前なー、また何か誤解してるだろ」
「ニール……っふえ」
「その声も反則。さっきの顔もだがどんなってな、」
 ティエリアの耳たぶをニールが犬歯に引っ掛けた。甘く噛まれて延髄の中にまでずくんと痺れが突き抜けた。ふるふる震えるティエリアの耳、鼓膜に直接、ニールが音を吹き込んでくる。
「お前、やることなすことがいちいち俺のこと好きだ好きだっつってるぜ。サイコーにかわいい」
 ティエリア、と呼んでくるニールの声は嘘を吐いていなさそうだと思ったら、安堵にほっとして膝立ちしていた膝が崩れた。ニールの太股へぺたりと尻を下ろしてしまう。でもまだ怖くてニールの首へがっしりぶら下がったまま。
 ティエリアの腕の下敷きになっている、ふわふわした栗茶色の優しい癖毛が、ティエリアの鼻をまるで宥めてくれるようにくすぐった。どんな味だか気になって、毛先を舌で手繰って含むやちゅぱっと大きく吸い上げてみた。
「何だよティエ、くすぐってぇ」
 聞かず、ニールの両耳の後ろへ五指をそれぞれ梳るように差し入れる。髪を後頭部のちょうど真ん中あたりへ集めて一つの束にする。片手で握り、少し勿体ないけど引っ付いていた体を離し、ティエリアはニールの顔を見た。
「僕は貴方を愛している」
 ニールが一瞬息を止める。すぐにふっと解除する呼吸へ含羞んだ苦笑が織り込まれる。
「――だからお前はンっとに……やべぇ」
「貴方は髪を結っても似合うと思います」
「そりゃどーもー……って、それと愛とどう関係あんだよ」
「……顔が……貴方が僕をかわいいと言うから……貴方はどうなのかと」
「はぁ、何だそりゃ。で、お前好み?」
「普段の貴方にはかわいいという言葉が当てはまらないが、髪をこのように高めの位置で結えばかわいいのでは」
 ティエリアは至極真面目に告げたのだけれど、ニールを思い切り失笑させた。笑いながらティエリアを抱き寄せ、目尻や頬にキスの雨を降らせ、背中と腰を撫でてから、ニールはいきなり真剣な顔でティエリアをきつく抱き締めてくる。ティエリアは目をぱちくりさせる。
「……お前がいて良かった」
 ――それはこっちの台詞です。貴方が生きていてくれた、それだけで。
 ティエリアはそうしなきゃ息絶えるとでもいうようにニールの唇を奪い取った。ニールの髪がふわふわとティエリアの火照る頬をくすぐった。
 五年前よりそれは少し長かった。


2009/04/25
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