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「ん、ほらよ」
 素肌に毛布を引っ掛けただけでベッドへ寝転ぶロックオンが、その脇に腰掛けて身支度を整えるティエリアへ、ずいと何かを差し出した。こじんまりした紙袋である。ティエリアが受け取る前に彼は勝手に袋を開けると、中からかさりと小さな何かを取り出した。
「土産」
「――不要です」
 昨日までロックオンは任務で地上へ降りていた。夜更けに宇宙へ帰還して、そのままこうして、朝に至る。寝かせてもくれなかった、と恨み言を吐いたところでどうせ彼には通じやしまい。ティエリアは寝不足な上極度に疲労した身体を無理矢理起こしているのだが、ロックオンはごろごろと毛布に包まりながらティエリアの腰へ引っ付いてくる。
「見ろよ。シュガークラフトっての。砂糖菓子」
 腰に腕を回されてしまっては立ち上がれない。ティエリアは渋々ロックオンが手に持つ土産とやらへ目を向ける。
 人間だった。
 ティエリアの親指ほどの大きさで、丸い顔に目、鼻、口がデフォルメで描かれている。肩で丸まる金髪は白いヴェールに覆われて、白いドレス、背中へ小さな白いリボン。ヴェールもリボンもすべて粉砂糖に水飴やアーモンドなどを練り合わせて作られているようだ。
「かーいーだろ。お嫁さん。で、こっちは男な」
 ロックオンは嬉々としてもう一体を取り出した。頭部は同じだがヴェールはなく髪が短くなっていて、胴体は白いスーツにやはり背中へ白いリボンがあしらわれている。ロックオンの手のひらに行儀よく並べられると清々しいウエディングの風景が鮮やかに見えるようだった。
「……それで、なぜこんなものを俺に」
 ティエリアが肩越しに一睨みすると、ロックオンは笑顔を少し引き攣らせる。怒ってんのかなー、と顔にしっかり書いてある。実際にティエリアは傍から見ればしっかりぷんすかしていたのだが、本人はそこまで腹を立てているつもりはなかった。単に理解が及ばないのだ。地上土産にこんなものを選ぶロックオンの心中に。
 しかし、質問の意図を誤解したロックオンは露骨に慌てふためいた。
「違う、違うって、そーゆーんじゃねんだティエリア」
「ではどういう」
「違うんだぜ、お前と結婚式挙げたいとかドレス着せるなら純白のマーメイドラインで髪に生花挿してとかじゃ」
「――思ってるんですね」
「う! ……まぁ……思ってなくはない、が……」
 その辺りの感覚がティエリアにはからきし理解できない。そうも儀式が大事なものか。男にドレスを着せて楽しいか。ティエリアなら式も服もどうだっていい。ここにいるのがロックオン・ストラトスでさえあれば。
 しおらしくこめかみを掻くロックオンは、菓子をころんとティエリアの手のひらへ転がした。
「それよかお前がコレ食ってたらかーいーなって……思ってだな……」
 腰に回される腕へぎゅっと力が込められて、顔を背中に押し付けられる。ティエリアは思わず身動きを止めた。
「た、食べるのですか……?」
 ティエリアは元が分かる形状の食べ物が苦手だ。だから魚はつくねやみじん切りになっていなければ食べたくないし、いくら砂糖菓子とはいえ人間の形を取っているなら尚更口に入れられない。
 だがそうと知らないロックオンの拗ねた声が、ティエリアの服でくぐもって余計に頼りなく聞こえた。毛布からはみ出ているロックオンの脛、大きな足の、爪先が拳を握るように足の裏側へ丸められている。
「……こんなもん、飾ってくれるとは思わねーもん」
「飾ります。貴方がそれを望むなら」
「でもお前土産いらねって」
「それは」
 ロックオンはティエリアのカーディガンを背中の真ん中で引っ張る。片側の肩がずるりと脱げる。妙に子供っぽい仕草を今は咎める気にならず、ティエリアは上体を捻ってロックオンの後頭部に近付いた。布団から覗く肩甲骨に胸の痒くなるざわめきを感じる。二体の人形をそこへ並べて載せてやる。
「貴方自身が、私には何よりのお土産でしたから……」
 ティエリアが静かに囁けば、ロックオンの機嫌が直るのはすぐだった。
「――ティエリアっ」
「あ、だめ、動いたら落ちます」
 間に合わず二体はベッドの隅へ散らばった。拍子にこつんと二体の顔がぶつかった。首筋掴まれて噛み付かれるようなキスを仰のいて受けるティエリアのように。
 壊れなくて良かった。
 目の端に菓子を確認すると、ティエリアは目の前の愛しい男に熱中した。


2009/05/09
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