忍者ブログ

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 ティエリアは自ら通信を開いた。彼に。
「先に出撃します。貴方も……お気をつけて」
『りょーかい』
 ヴァーチェのコクピット内モニター左、小さく区切られたウインドウに、ロックオン・ストラトスの飄々とした顔が映る。まだヘルメットも被っていない。右手を顔の横へ垂直に立て、ウインクさえしてみせる彼は、それまで相棒であるハロと戯れていたようだ。
 彼は緊張しないのだろうか。CBが全世界に対して宣戦布告を叩き付けようという時に。
「……気をつけて」
『あぁ』
「くれぐれも気を、……いえ」
 なんべん言うんだ、と揶揄されそうな気がしてティエリアはやむなく口を噤んだ。だが予想した揶揄はない。ティエリアは肩透かしを食らった気分でモニターのロックオンを見る。すると彼は、珍しく、優しい笑みを引っ込めた。
『なぁ』
「はい」
『約束しようぜ』
「どんな」
『簡単だ。お互いトレミーに無事戻ったら、』
 ティエリアは音量のボリュームを上げる。ロックオンの声は低く、ゆったりとして、一音たりとも聞き漏らすまいとするティエリアにはもどかしいほど小さかった。意味はないのに左へ体が寄ってしまう。ロックオンの画像の口許で必死に耳をそばだてる。
『――キス、しようぜ』
 ロックオンは息だけで笑った。
「……そんなもの……いつも、しているではないですか……っ」
『おーおー真っ赤んなって、かわいー』
「馬鹿にしないでもらいたい!」
『ん、いつもの調子が出てきたな、ティエリア』
「……ロックオン……」
 それでようやく、自分が緊張していたらしいことに思い至るティエリアである。でもこの自分がミスなど決してするはずがないと思い込んでいるから、不安をロックオンに転嫁している。
 この人には何でもお見通しなのだ。
「……ロックオン……気をつけて……」
 我慢できずにティエリアはまた呟いてしまう。ロックオンが小さなウインドウでも見て取れるよう大げさな動作で頷いてくれる。
「気をつけてください……ニール」
『ッ――ティエリア』
 モニターとバイザー越しに、請われた約束を前倒しして一つ与えた。
 続きはトレミーへ帰還してから。ティエリアは唇だけで笑み、ヴァーチェの発進シークエンスに移行する。幾度となく繰り返してきた手順を、今度は初めて、練習でなく実戦として行うのだ。いよいよミスは許されない。
 緊張を飲むように目の端へちらりと横切らせてみればウインドウは、苦笑するロックオンをいつまでも映してくれていた。


2009/05/26
PR
コメント
トラックバック:
[latest]
flavour (03/31)

  1. 無料アクセス解析
忍者ブログ [PR]