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「俺さ。兄さんが好きだったんだ」
 虐待のように荒々しく嬲られた後。痛み止めの麻酔が効いてほとんど動けないティエリアと、ティエリアを我が物顔で抱き締めるロックオン――ライル・ディランディは、互いの温もりにうつらうつらと微睡んでいた。
 頭上で聞こえる告白にティエリアは鈍く薄目を開く。いつもならどんな睦言も無反応でやり過ごすティエリアだったが、この時ばかりはライルのいやに儚い響きが気になった。溜息に混ぜて吐き出す言葉が捉えどころのない悔恨に似ている。
「……好き、とは」
「言葉通りだよ。俺は兄さんが好きだった。優しくて、頼りがいがあって、射撃の腕もセックスも一流。生まれる前からずっと隣にそんなのがいたんだぜ」
 惚れない方がおかしいだろ、と、ライルは自虐的に言う。否、にしてはあっさりしすぎているか。
 背へ回される腕にできるだけ触れないよう身を縮めつつ、ティエリアはきゅっと、ベッドのシーツを握り締めた。
 未だに彼の話題は嫌だ。彼との記憶は過ぎ去った思い出のように懐かしむほど色褪せておらず、どころか、日に日に想いは募る一方。同じ顔を持つ弟が視界に入ればなおさらだ。彼の名を聞くだけで身が竦み、恋焦がれ、間接的とはいえ彼を死に至らしめた自分が憎くて苦しくてたまらなくなる。
 シーツに食い込ませている爪が折れそうに撓んだ。なのに、ライルは淡々と、勝手に話を続けている。
「兄弟だぜ。しかも双子だ。相手にしてもらえるわけがない。だから、ただ、一番近くで一番多く、一番格好良い兄さんを見ていられればそれでいいと思ってた。……けど兄さんが他の誰かと付き合ってんのを笑って見てられるほど強くもねぇだろ。それで無意識に避ける、っつうか、気付いたら疎遠になっててさ」
「……」
「お前のことも、最初は、どうやって痛めつけてやろうかとばかり考えてたんだ」
 ライルはまったく悪びれずに白状した。最初は、ではない。きっと今もだ。ライルがティエリアの身体を労わるように抱いたことなどないのだから。今は痛み止めで散らされているこじ開けられた裂傷は、脈動するたび血管が疼いて遣り切れなさを拾ってくる。明日は歩けないだろう。
 ティエリアは眼前の胸板を睨む。だが睨みきれなかった。そこだけ見れば、ティエリアの求めて止まない彼とそっくり同じものなのだ。
「なぁ。ティエリアは、兄さんのどこが好きだったんだ? ――いや、逆か……」
「……逆」
「悪い。何でもない」
 頭を左右へ振ったのだろう、髪のシーツへ擦れる音がティエリアの旋毛あたりに鳴る。
 ライルはティエリアの首筋に顔を埋めてきた。抱き締める腕に一層力が込められて、ティエリアの肩が半ば本能的に強張る。彼以外に、そう拒む気持ちはだが次の瞬間贖罪の意識に取って代わられ、ティエリアはゆるゆる、ライルの頭へ両手を伸ばして抱きかかえた。ライルが勢いよくしがみ付く。
「分かってるんだ。分かって――……」
 ライルが小さく呟く意味を、ティエリアは知ろうとしなかった。知ったところで、ライルに身体を差し出して彼へ償おうとする支離滅裂な自分の行為は止められない。
 また一つ、彼への背徳感がティエリアを苛んだ。
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