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 ティエリアは甘いものがあまり好きでないようだった。
「甘すぎます」
 初めて食わせたソフトクリームの感想は実ににべもない一言で、もちっと色好い返事を期待していたロックオンは苦笑いするしかない。
「それに」
「まだ文句あんのかよ」
「はい。あまりにも冷たすぎます」
 それが美味いんだろが、とはとてもじゃないが言えない雰囲気になっている。トレミー内が地上の夏みたいに蒸し暑くないせいかもしれない。って完全に責任転嫁か。ティエリアの好みを読み違えたのはロックオンだ。
 ティエリアはカーディガンの裾を引っ張って伸ばす仕草を見せた。
「寒ィ?」
「こんなに冷たい嗜好品を摂取すれば当然です」
 怒ってる、ような気がする。つんとそっぽを向かれてしまい、ロックオンはガラにもなくたったそれだけで泣きそうになる。
「……あったかい茶ァでも淹れるわ」
 ロックオンの自室にはちゃんと紅茶が備えてあった。ティエリアが来るようになってからだ。置き場所がなくてマグカップやティーバッグは電気ケトルごとユニットバスの洗面台に乗せている。
 清潔好きに見えてそういうとこズボラなティエリアが褒めてくれたのはいつだったっけか。コンセントも水源も近く効率的だとか何とか。女なら絶対嫌がるだろうから、ああこいつもこんなナリして性格は立派に男なんだなと妙に感動した覚えがある。その落差が愛しいんだ。
 ロックオンは立ち上がり、ティエリアの前を横切った。と、不意にティエリアへ腕を引かれた。
「いえ、その前に」
 ティエリアの顔が心なしか青い。
「……貴方が私を温めればいい」
 見つめられる。
 ――気が付いたら、ティエリアを座っていたベッドに押し潰しかけていた。ソフトクリームは台無しになる寸前でかろうじてティエリアが守っていた。ロックオンの脇からソフトクリームの頭が覗く。溶けた白い雫がコーンを伝い、ティエリアの手首へ垂れている。
 ティエリアはきょとんと、だが次の瞬間にはさも満足げに瞬きをした。
「これでは、食べることができません」
「だな……悪ィ」
 ティエリアを助け起こした。元通り座らせて、横から改めてティエリアを羽交い絞めにする。
 体温がじわじわ染み渡り出すと、背中が少しひんやりしているのが伝わった。これじゃソフトクリームも体を冷やすだけだったろうな。ぎゅうぎゅう抱き締めてあっためてやる。ティエリアは甘えるように首を傾けて擦り寄ってくる。紅茶はひとまず要らなさそうだ。
「垂れてんぞ、アイス」
「……っあ」
 ティエリアの手首を引き寄せて舐める。ティエリアの体臭とバニラが混ざってくらくらするほど甘ったるい。そのまま身を乗り出した勢いでティエリアの上唇を軽く舐めたら、こっちは熱くてさらに甘くて、甘さに思わずのめり込む。
 ぎこちなく応えるティエリアの唇がソフトクリームより柔らかかった。歯列をまさぐり、舌を吸って、離れる頃には絡めた唾液が糸を引いた。
 ティエリアはすっかり頬を上気させている。ロックオンへ全体重を預けてくる。
「早く、食べないと……もっと溶けます……」
 ソフトクリームは当初のフォルムを徐々に失いつつあった。指で掬うと溶けかかったバニラは予想したほど冷たくなかった。
 指先をティエリアの口許へ付ける。
 ティエリアは潤んだ瞳でロックオンを見つめると、ふ、と小さく息を吐き出した。目を瞑り、躊躇いがちに指を根元までくわえ込む。ソフトクリームを飲み込もうとして甘さにかわずか眉を顰める。白い雫が口の端からとろりと垂れる。
「ンながっついて……気に入ったのか?」
「んっ……ふ……」
 ティエリアは首をしどけなく振った。軽く歯を立て、指の関節をしごくように引っ掻いた。
 ソフトクリームは強く握られてコーンが砕けかけている。ティエリアの手からそっと外してベッドサイドへ無造作に置くと、バニラはみるみる溶け出した。
 待ち兼ねたようにティエリアが両手でロックオンを手繰り寄せる。口からロックオンの指を抜き、濡れた唇を舌でしっとり舐め上げる。
 体感温度の上がる部屋に、甘い匂いが立ち込めた。





2010/03/25
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