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 右目から血。ぼとりと目玉。それでもコクピットに飛び乗って、去る背中、右目を庇って激戦の果て、閃光に飲まれ爆発し優しい顔も栗茶色の髪も銃を撃つ手もティエリアを抱き締めてくれた体が、全部、
「ッやぁーーーっっ!!」
「ティエリア!」
 飛び起きた。
 夢だった。
 ティエリアの肩を掴んで揺さぶる優しい顔が、彼が、そこにいて、大丈夫夢だった悪夢は醒めて悔やんでも悔やんでも取り返せなかった自分の魂の根幹が、ここに。
「……ロックオ、……ニー……」
「あぁ、俺だ、ニールだ」
「ニール……」
「大丈夫か、ティエリア」
「ニー……、っ、ル、……ぅ」
 涙が溢れた。絶対失えなかったものを自らの過失で失う恐怖、生きたまま四肢を裂かれて腹を割られるより耐え難い、苦しみのあまり死んでいいなら一秒毎に死に続けるほどどろどろに辛い辛い夜。もうとうに終わったはずのそれがこうしてニールを取り戻した今もまだティエリアを苛んでいる。月のない夜、獏も喰わない爛れた夢で。
 ニールは何も言わなかった。悪夢に怯えるティエリアを、割れ物のように触れるか触れないかで抱き寄せた。
「……ニール……僕は、どうすれば……」
 貴方がすぐ傍で眠っていても、貴方が死ぬ夢に魘される。これは貴方への背反か。貴方の生を冒涜することになりはしまいか。
 ニールが目許へ落としてくれる淡い口付けひとつさえ、再び失くしてしまいそうで怖かった。人間とは何度でも飽きず過つ生き物だ。人間になるということはその愚かさをも己が内に含まれていると認めることだ。すなわちティエリアは再び繰り返すかもしれない。あの悪夢を、現実を。
 ティエリアは必死でニールの体温を探った。とめどなく涙が零れ出た。怖くて恐ろしくてこれから一歩も前に進めないと思った。
 けれどどこかで安心している。あの時と違って今はちゃんと泣けるから。落ちた涙を舐め取ってくれるひとがいる。未来を切り拓く力をくれる。
「今度こそ……僕が必ず貴方を守る……!」
「――そりゃ俺の台詞だろッ」
 涙ながらに決意したのに、お前ンっとにかわいいヤツ、とニールは笑うばかりだった。


2009/04/30
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